妊娠を経験した人は、妊娠すると歯が悪くなる、という情報を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。中には「赤ちゃんにカルシウムを取られてしまうのが原因」なんていう噂まであるようです。
妊娠中に、お口の中のトラブルが起こりやすいことは事実です。しかし、その原因は決して、お腹の中の赤ちゃんにカルシウムを取られてしまうからではありません。今回は、妊娠中のお口の変化はなぜ起こるのかと、その対策についてお話しします。
妊娠中のお口の中の変化
1.虫歯が多くなる
妊娠中は、胃が圧迫され、食事が少量ずつしか取れなくなる方が多いです。そのため、食べ物が口の中にある時間が増えます。食べ物に含まれる「糖分」は、お口の中の細菌にとって栄養分。糖分を得た細菌は、酸や毒素を作り出し、歯の表面を溶かしていくのです。これが虫歯の第一歩です。
それに加え、妊娠中はつわりがあり、歯磨きは愚か、気持ちが悪くてうがいすらできないときもあります。また、食べづわりの方は、常に食べていないと吐き気がおさまらないので、中々歯磨きのタイミングがありません。これらの要因が重なり、虫歯の出来やすいお口の中になるのです。
最近では、虫歯は母子感染することが知られています。虫歯のあるお母さんの子どもは、虫歯のないお母さんの子どもと比べると、虫歯になるリスクが約2倍というデータもあげられています。お母さんのお口を健康にすることは、赤ちゃんのお口の健康を守ることにも繋がるのです。
2.歯肉炎や歯周病になりやすい
お口の中の細菌は、虫歯だけでなく歯茎の病気の原因にもなります。歯と歯茎の間には「歯周ポケット」と呼ばれる溝があります。その部分に細菌が溜まることにより、歯茎が腫れて「歯肉炎」になり、もっとひどくなると歯が植わっている骨まで溶かしてしまう「歯周病」に進行してしまいます。
実は、妊娠中に分泌されるホルモンは、歯肉炎や歯周病の細菌にとって非常に好ましいものです。なので、妊婦さんは普通の人に比べて歯肉炎、歯周病になりやすいのです。それに加えて、先程虫歯の話にもあったように歯磨きがなかなかできなくなるので、歯肉炎、歯周病のリスクは更に高まります。
また、妊娠中の歯周病は、早産や低体重児の出産のリスクが高まるという報告もあります。現代では、成人の約80%が歯周病というデータもあります。「自分は大丈夫!」と思わずに、妊娠したら自分のお口の中をもう一度振り返ってみましょう。
◆妊娠中のお口のトラブルを予防するには?
1.歯磨きをしよう!
自分で毎日行う歯磨きが、一番の予防に繋がります。歯ブラシを口に入れるのが辛い方は、普通の歯ブラシでなく、タフトブラシという小さい歯ブラシを使うと良いかもしれません。歯にのみしっかり当てることができるので、比較的楽に磨くことができます。
匂いの強い歯磨き粉を避けるなどの工夫も良いでしょう。泡立ちにくい歯磨き粉も最近は売っていますので、泡で気持ち悪くなってしまう方にはおすすめです。どうしても歯磨きができないときは、無理をする必要はありません。しかし、「磨けるときは必ず磨く」が鉄則です。
2.補助用具を使おう!
歯磨きだけでなく、歯間ブラシ、デンタルフロスなどの補助用具を使用すると、細菌の除去率がぐんと上がります。歯ブラシだけだと、細菌の除去率は約60%程度ですが、補助用具を使用すると、80%~90%にまで上昇します。また、マウスウォッシュを使用することも、細菌の繁殖を抑えることができますので、有効でしょう。
3.虫歯になりにくい食べ物・飲み物を選ぼう!
最初にもお話ししたように、細菌の栄養分は「糖分」です。いつもジュースを飲んでいる方は、それをお茶やお水に変えるだけで虫歯予防になります。また、食事の最後をサラダにしたり、リンゴを食べたり、氷をなめるなどすると、口の中が少しすっきりするでしょう。いつも舐めている飴を無糖のものに変える、キシリトール入りのガムを噛むなども虫歯予防に効果的です。
◆妊娠中期に歯科医院の受診を!
妊娠が安定する約20週以降の時期に、歯科医院を受診してお口の中をチェックしてもらいましょう。そのときは、自分が妊娠しているということを、歯科医院の先生や歯科衛生士さんに必ず伝えてください。歯科医院で使う麻酔もレントゲンも、お腹の赤ちゃんへの影響はほとんどありません。それよりも、お母さんのお口の中にトラブルがある方が、悪影響なことが多いのです。
しっかりお口のケアをして、赤ちゃんを迎えてくださいね。
※上記コラムに関するご質問・ご相談は、虎ノ門(神谷町)の歯科、岡田歯科クリニックへご連絡下さい。